Dear Friends

DF 28 鞭打ちと石たたきとホモサピエンス

2003年2月

親愛なる友よ

オックスフォード・イングリッシュ・ディクショナリーによると、ホモサピエンス(学名Homo sapiens sapiens)は、現在までに解明しているところによるとケニア(或いはタンザニア)に起源を見るヒト属の最新バージョン。人類の進化の最も顕著な特徴は、脳の大きさおよび複雑さ、その文明および社会性、そして周りの環境を変える能力の大いなる発展である。

この進化が始まったのはたった8万年前、人類が骨で出来た道具を作り、火を使いこなすことを覚えた時からなので、遅いスタートだったと言っていいだろう。

という訳で僕らは今日ここに在る。維持するのが困難な程の成長率を見せながら、いまだにお互いを殴り殺し合い、ナタや飛行機や目に見えぬ脅威や国同士の制裁や(その大半はごく原始的で当てにならない)爆弾で大量殺戮を繰り返しながら。

無知と憎悪に、または欲と悪意に煽られ、そしてそれぞれが選んだ神の名の下に、人間の暗黒の部分が浮き上がる。それは我々の理解を遥かに超えるものであると同時に、ちっとも目新しくない、誰もが知ってる話だ。何という逆説か。

この件に関しては既に多くの人や団体が見解を述べている中、僕の意見など聞いてもつまらないかもしれないが、それを承知の上で言わせていただきたい。現在提唱されているイラクに対する攻撃はバカバカしく道徳に外れるものだ。『大ハンマーをもって木の実を割る』という英語の格言(日本語では『鶏を割くに牛刀をもってする』)がピッタリの表現だろう。その法律的正当性や公正さは議論の余地のある点だというのが最近の世論だろう。パーシー・シュマイサー(Dear Friends No. 20を参照・現在英語ファイルのみ)やトニー・マーティン(下記参照)のような人達に対する裁きの例を聞くと、僕が間違っていると思っている事を社会全体は正しい事だと判断している印であり、もしかして僕はすべて正反対の鏡の世界で暮らしているのではと思わざるを得ない。

ちょっとの間だけだが、我々の政府はイラク国内の事情を把握していながら、その悲惨さは公衆に知らせるべきではないと判断して公表していないのだと思っていた。が、その内にこの見解は捨てた。もしそうであれば、その情報は他の国の偉大なるリーダー達にも伝わるであろうし、そうすればこの侵略に関してどの国も反対などする訳がないじゃないか。もちろんサダム・フセインの犯罪に加担している国(どの国だかは、誰もが知っている)を除いては。

議論ついでに、これはどうだろう。戦争賛成派の関連書類一式がどれも私利私欲のかけらもない、思いやりの精神が溢れる内容だと想像してみてくれ。不服従を理由に、元盟友のサダム・フセインを抹殺しようとする動きや、まだ姿を潜めているWMD(大量破壊兵器)、そして民衆をはやし立てようと吠えている連中。難しいだろうが、この戦争には隠された動機はないのだと過程してみてくれ。

そして今度は自宅に夜中に侵入して来た人間を撃ち殺した罪で刑務所に送られたトニー・マーティンという男のことを考えて欲しい。トニー・マーティンは在宅中、彼は侵略者でも何でもなかった。その地域社会における「世界平和」に価するものにとって、彼は脅威ではなく、復讐を企んでいる訳でもなかった。一人暮らしの彼はただ恐怖に見舞われただけ。しかも誰かが彼の家に侵入してくるのはこれが初めてではなかった。

夜の闇の中、急に目覚め、何か物音がする...誰かがこの家の中にいる! と気付くその瞬間。これ以上に背筋が凍る恐怖体験はないだろう。盗みが目的か、それとも強姦されるのか、もしかして殺されるのか? 何か良い事をしようと他人の家に侵入してくる奴はいないはずだ。なのにイギリスでは、もし貴方がそんな状況に陥ったとしても、パジャマの中で破裂しそうな心臓のドキンドキンが生み出す本能的な敵意を剥き出しにすることは許されない。武器を使っての凶行は違法なんだ。

拳銃であろうと大きなロウソクであろうと、とにかく武器を手にしてはいけない。この国の法律では、誰かが家に侵入してきた場合、その侵入者を「必要最低限の暴力」を使って拘束することしか許されていない。そう、余りにも馬鹿げた話で事例によってはまったく不可能なことだろうが、起こり得る状況の内、最も威嚇的なシナリオの最中、自分の洞穴に侵入してきた影に対する本能的かつ真なる恐怖の最中にすら、「その者を拘束するに必要最低限の暴力」を使うことしか法律上は許されていないのだ。

私有地に侵入して来た者は文句なしに撃ち殺していた時代は遥か彼方。死刑廃止からも既に二世代は経つ(ああ良かった。)報復も、国家による殺人も、公正な法の下に成る文明社会では容認されないのだ。

その文明および公正の精神の名をもって尋ねたい。イギリス政府は、地理的および政治的な意味で一触即発の地域のど真ん中にある独立国に対して戦争を布告することを、どうやって国内でのこの平和重視の主義と一致させるというのだろう?

これこそウラオモテ社会と呼ぶしかない。我が国の外交政策には正にそのウラオモテ主義が深く深く刻まれている。政府のお偉い様にこそ、グローバライゼーションとは何か、そしてそれは今後どういったことを我々にもたらすか、ちょっと勉強して欲しい。今はどんなに自信タップリな官僚も、武器を手にするまでもなく人々の尊敬を集められるように、今のうちに勉強しておかないと、後々きっと痛い目に会うのは明らかだ。

オリュンポス山の麓に居を構える我々平民は、首から上は雲の上で下界のことがさっぱり分からぬ半神半人のお偉い様達のかかとを時々噛み付き続けてやるしかない。

宇宙がその形成の最中、その「赤ちゃん時代」にどんな形状をしていたかを示すという写真を最近NASAが公表した。カメラは嘘をつかないらしい。

我が宇宙は1兆年前から存在し、今後も崩壊することはなく、ただただ膨張を続けるのだそうだ。他に存在する(まだ生まれていないものも、大昔に消滅してしまったものも、また発達の途中にあるものも含めて)何億・何兆・何京という、計り知れない数の宇宙のことを考えると、この結論はどうも納得できない。何故ならば空間的無限というものは(例え11次元でも12次元でも)その燃料(僕達)が存続する限りにおいて存在し得るものであり、それがいつか“ポン!”といって消滅してしまうのは、宇宙の発生をもたらした“ビッグバング”と同じぐらい確実なことだからだ。

原子から成り立っているのは宇宙のほんの小さな一部のみで、残りは暗黒物質("Dear Friends" No. 24に書いた通り:...そして気がついた。科学者達は見当違いの研究をしていると。暗黒物質なんかどうでもいい。それは一致しない方程式の一部でしかなく、何故一致しないかというと最初の過程が間違っているからだ。解明されていない重力は宇宙(我々の知りたる全ての物)の外から来るものであり、限界のある、粘膜の固まりのような僕達の宇宙は、その外の圧力が減少しつつあるお陰で外へと拡がっているのだ。)および謎のエネルギーから成るのだという事実が発見された。ロックンロールに似ていなくもない。

という訳で...僕は窓ガラスを洗い流しながら、極薄の生地で出来た、ラファエロ前派風デザインのガウンを着て玄関前の段をゴシゴシこすっている隣の住人とお話していた。僕は珍しく青い、おしゃれな服装で。そこへ軍の特別消防車 [注1] がゴロゴロやってきて、通りに面する家すべてに水をぶっかけていった。怒った住人は早速パブに集合し、区役所に宛てた抗議の手紙を書くことに。

断固とした返事がすぐに戻ってきた。「消防車のお陰でどの家の窓もきれいになったでしょう? じゃあ一体何に対して文句があるというんですか? 罰金として一人80ポンド、すぐに支払うように」という要旨だった。

我々みんなが均質化したヒトという動物になりつつあるという興味深い事実に注意を向けてみたい。文盲だろうが頭韻をふんでいようがなかろうが、こうして我々の一人一人が、この世界の私的な歴史を創ることに専念する。

物理的な意味での人類がその臨界質量に到達し、その不幸な最期に向かっての向こう見ずな競走の最終ラップに入ろうとする中で、精神的なノアの箱舟を作っている人もいるし、もっと多くの人はパワーと狂気に酔いしれている。

新アルバムは完成したところで、8月末に発売されるようだ。僕としてはとても満足のいく作品になったと思う。一緒に仕事をしたプロデューサー、マイケル・ブラッドフォードはすごくいい奴で、メンバー全員が彼のことは尊敬している。もっと詳しいレポートを書きたいのだが、今回はハラハラする場面で終わり、次回に続く...

Cheers,
Ian Gillan
Copyright (c) Ian Gillan 2003

訳者注:
[1] 消防署のストの際など、代わりに消火活動に使われるが、あまり効果がないと国民に思われている。

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